【ベクトル海外駐在員コラム】香港Vol.1:香港におけるモバイル決済

香港市場と中国本土市場でまったく異なるPR観点を持つべき理由とは?香港でマーケティングやPRを行いたい方、今の香港のマーケットを知りたい方、ぜひご覧ください。
香港交通系 IC カード八達通Octopus

こんにちは、ベクトル香港の文野でございます。香港におけるモバイル決済についてお話したいと思います。香港でマーケティングやPRを行いたい方、今の香港のマーケットを知りたい方、ぜひご覧ください。


▋香港交通系 IC カード「八達通」

「八達通」(Octopus、オクトパスカード)は香港で利用可能な交通系 IC カードで、コンビニやカフェなどの支払いにも使えるため、香港内ではなくてはならないカードです。これまで長らく物理カード形式での提供しか行われずモバイル対応が進まなかったのが、ようやく2020年6月からApple Payにも対応できるようになりました。ただし、利用にあたっては香港発行のクレジットカードが必要になるため、出張ビジネス客などの外国人は利用できません。

仮に「八達通」(Octopus)の物理カードを取り込んで Apple Pay に登録できたとしても、現状ではほとんどのケースで現金チャージしか受け付けていないほか(コンビニやスーパーでもチャージ可)、地下鉄駅構内などに設置されているチャージ機も物理カードを差し込んで利用するタイプしかなくモバイル機器での利用を想定していません。

香港交通系 IC カード八達通Octopus
八達通

一方、中国本土では既に 2018 年から中国運輸省等が主導する形で交通カードシステムが構築され、北京、天津、上海、河北省など、中国のさまざまな都市の鉄道、地下鉄、バス、タクシー、フェリーなどでの相互利用が可能になり、Apple Pay や Huawei Pay などモバイルペイメントのプラットフォームでも既に決済できるようになっています。今や世界一のモバイル決済普及率を誇る中国ですが、中国の一部である香港では正直モバイル決済の普及が進んでいるとは言えません。

香港では最近ようやく新車のタクシー(トヨタの4人乗りガソリン車、コンフォートが 2017 年に生産停止となり新たにトヨタの JPN TAXI を採用)で「八達通」(Octopus)が使えるタクシーが出てきていますが、タクシーは基本現金のみしか取り扱っておらず、香港での生活において現金は必要不可欠です。そこで個人的に香港におけるモバイル決済の現状について気になったので、ここで少しお話しさせていただきます。

「八達通」が使えるトヨタ新車のタクシー
「八達通」が使えるトヨタ新車のタクシー

▋香港におけるモバイル決済の現状

先ずは香港における「八達通」(Octopus)についてですが、先にも述べた通り非常に用途の広いプリペイド式の IC カードで、公共交通機関のほか、コンビニエンスストアや、ファーストフード店、スーパーマーケット、カフェ、自動販売機など小売店を中心に約 3 万ヶ所で利用でき、一日当たりの取引回数はおよそ 1,500 万回にも上ります。1997 年に発行を始め、現在まで 3,600 万枚を発行。実に 95 %以上の香港居民が利用しています。

香港八達通Octopusオクトパスカードの利用状況
「八達通」(Octopus、オクトパスカード)利用状況
出典:https://www.octopus.com.hk/en/business/index.html

次に香港における eコマース(電子商取引)市場ですが、人気カテゴリーとしては旅行、健康、美容、家電が主にメインです。香港居民は旅行好きとしてよく知られますが、コロナ前から旅行代理店での購入から OTA(オンライントラベルエージェンシー)へのシフトが既にみられます。さらに注目すべき点として、コロナ禍において香港最大手旅行代店としてしられる『EGL Tours 東瀛遊』が新たに食品を取り扱う eコマース市場に参入したことです。国境が封鎖されて旅行ビジネスとして厳しい状況が続く中、旅行代理店が始めた新たなビジネスとして注目を浴びています。

香港eコマース市場での人気カテゴリー
香港eコマース市場での人気カテゴリー
出典:J.P. Morgan 2019 Payments Trends- Global Insight Report

香港におけるインターネットの普及率は 89.4 パーセントと高く eコマースビジネスにおける下地は整っています。英国の租借地でもあった香港では早くからクレジットカードが普及しており、高額の支払いの時にはクレジットカードを利用するスタイルが定着しています。ただ、eコマース市場での決済方法と言いますとクレジットカードの 49%に比べモバイル決済(下記図のotherとdigital walletの合計)は 32%とまだ開きがあります。

香港eコマース市場での決済方法
香港eコマース市場での決済方法
出典:J.P. Morgan 2019 Payments Trends- Global Insight Report

このモバイル決済の数字は中国の76%、インドの46%、シンガポールの42.3%に比べて香港の32%はかなり低い数字となっています。また、香港生産力促進局が実施した調査「AlipayHK Smart Payment Popularity Index」で、モバイル決済を利用していない人にその理由を尋ねたところ、「操作手順が良くわからない:68%」、「プライバシー漏洩の恐れがある:55%」、「現在の決済方式に満足している:46%」という結果がでています。

モバイル決済を利用していない人にその理由
モバイル決済を利用していない人にその理由
出典:AlipayHK Smart Payment Popularity Index 2018H1

香港での調査によると、モバイル決済普及率の低い香港において、どのモバイル決済方法が使われているかというと1位『Alipay 67%』、2位『Payme 48%』、3位『WeChat Pay 44%』となっているそうです。ここで個人的に疑問に思ったのが、確かに市内ではお店のレジで Alipay や WeChat Payを利用できる端末をよく見かけるのですが、実際には現金、クレジットカード(デビットカード含む)を使う人が多い印象を受けます。弊社香港事務所のスタッフにも確認しましたが、Alipay や WeChat Pay を使用する人は皆無でした。


ただ、2位の『PayMe』に関しては多くの香港居民が利用しています。『PayMe』とは HSBC(香港上海銀行)が 2017 年からサービスを開始したモバイル決済サービスで、HSBC 銀行に限らず、香港内で発行されたクレジットカード(Visaもしくは Mastercard)を持っていれば誰でも無料で利用できるモバイル決済サービスです。これは App Store または Google Play でダウンロードできます。私もよく友人と数名で食事に行く際は誰かが代表で支払い、その他の人が代表に PayMe を使い支払いします。

香港モバイル決済サービスPayMe
香港モバイル決済サービスPayMe

▋香港市場は中国本土と全く異なる

それではどうして Alipay と WeChat Pay が香港での主要モバイル決済という結果がでているのかいう疑問が浮かんできます。さらに疑問に思ったのが、中国でのスマートフォン向けインスタントメッセンジャーアプリが WeChat なのに対して、香港では圧倒的に WhatsApp が主流で、WeChat 普及率はそれほど高くありません。

香港ではWhatsAppが主流
香港ではWhatsAppが主流

一つの回答としてのAlipayとWeChat Payの使用率が多いという結果は中国本土からの観光客が決済手段として利用しているということです。香港政府観光局の 2019年10月訪港旅客統計によりますと1月から10月までで中国本土からの観光客は約 4,000 万人を数えます(2018年は合計約5,100万人)。香港の人口が約 750 万人であるとこを考えると驚きの数字です。

中国本土からの観光客がAlipayとWeChat Payを利用している
中国本土からの観光客がAlipayとWeChat Payを利用している

このことから中国本土からの観光客が本土で既に普及しているAlipayやWeChat Payのモバイル決済を香港で利用していると思われます。AlipayとWeChat Payは2019年7月15日から香港内での公共料金の支払いができるサービスを開始しましたが、PayMeも2020年7月15日から同様のサービスを開始しました。今後はこの上位3つのモバイル決済に加え香港居民から絶大なる支持を集める「八達通」(Octopus)を加えた 4 つのモバイル決済が中心になると思われます。

香港のコンビニによくあるモバイル決済方法
香港のコンビニによくあるモバイル決済方法

今後は冒頭でもお話ししました新型タクシーなどでも、モバイル決済サービスが開始されれば、一気にキャッシュレス化へ進んでいくことが予想されます。ただ、これには情報漏洩の不安を払拭できるセキュリティ対策を、どのように香港居民に訴求できるかが一番大事なポイントかと思います。

香港は中国の一部ですが、モバイル決済方法一つ見ても分かるように中国本土と市場は全く異なります。データ上は Ali pay 及び WeChat Pay が香港で最も使用されているモバイル決済サービスですが、香港居民はというとそうではありません。メディア特性についても香港と中国では全く異なります。PRという観点でも香港と中国は分けて考える必要があると思います。

メディア特性について香港と中国では全く異なります。PRという観点でも香港と中国は分けて考える必要があります。
香港のメディア特性は中国と全く異なります

ベクトル香港は香港市場を熟知したナンバーワン日系PR会社として今後もお客様の要望に応えていけたらと思っています。プレスリリース配信やSNSアカウント運営、KOLアレンジメント、ショッピングモールコラボ、販促PRなど、お客様の目的やニーズに合わせて最適なソリューションをご提案いたします。香港市場に関するご相談はなんでも承りますのでお気軽にお問合せください


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Vector Group International Limited ベクトル香港事務所は2012年6月に設立。

ベクトルグループの香港事務所として、香港唯一の日系メジャーPR会社の地位を築いています。人口当たりの訪日客数、および日本食品輸入量で世界第一位を誇る香港の地で、ローカルスタッフによるローカルの強いネットワーク、デジタル部門との一気通貫体制を武器に、JNTO香港事務所やJETRO香港事務所をはじめとした日系クライアントのインバウンド施策をサポートしています。

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ベクトル香港文野陽介
Author Information

文野 陽介
Vector Group International Limited ベクトル香港
PRコンサルタント


2019年10月に香港に赴任して以来少しでも香港のことを知りたいと言う想いから休日は香港各地を巡り風景写真や動画を撮っています。2020年4月よりYouTube(Yosuke Bunno文野陽介)にも動画を定期的にアップしていますので、ぜひご覧ください。コロナ禍で始めた新たな趣味で人様に御見せできるようなレベルではないのですが、少しでも香港を感じ取っていただければと思います。

►►「Yosuke Bunno文野陽介」YouTube:https://www.youtube.com/user/yosukebunno




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